視察してきたビュッフェの動画を元に、必要な物を書き出して、経理にいくらぐらいかかるのかを算出していただいた。 そこからは、各部門の力の見せどころで、それぞれの役目を担って、ようやく食堂の改装が始まった。 同時に新しいスタッフさんを追加募集し、魚崎さんも最終面接官として入っていただき、料理の腕を審査していただいた。魚崎さんのレシピを学べるとあって全国から多くの方々が集まった。 元々、調理経験者の方が多く、筆記試験をパスされた方は、高評価の方が多かった。 筆記試験では、料理の知識は勿論のこと、衛生管理の面や創造性、チームのメンバーの1人としてのコミュニケーション能力も問われる。 日頃の人事部の『人を見る目』が発揮された。 更には、実践においては、魚崎さんの目が光り、調理方法やチームの1人としての強調性、ハプニングに対しての対応を見る為、魚崎さんは敢えて、当日、課題として出していた料理に、プラス「お客様が1品増やして欲しい! とおっしゃられました。プラス30分与えますので、全体の今日のメニューを考慮した上で、チームで1品増やしてください!」と難問を与えたのだ。 さすがだと思った。 魚崎さんは、私にも、 「あの人どう思いますか?」と聞いてきた。 調理の手際の良さ、チームの方との協調性、素晴らしいと思った。 「調理の腕前は申し分ないですし、人当たりも良く皆さんをまとめていらっしゃるようにお見受けしますので、リーダーに向いているのではないでしょうか?」と言うと、 「さすが五十嵐さん! 私もそう思っていたんですよ」とおっしゃられた。 ──あ、今、私が試されたのね…… その間の食堂の営業は、縮小され少々不便ではあったが、とても綺麗になってリニューアルオープンすることになった食堂を見て皆、納得していた。 もはや食堂ではなく、オシャレなレストランになったのだもの。 会議を重ねて、結局、平日は、魚崎さんのビュッフェスタイルの日と私が考えたワンプレートの日を交互に設け、汁物や丼物の単品は従来通り常に提供することになった。 そして、夕方からの営業は、レストランを半分に仕切り、光熱費を減らして営業することに…… 夜は、ワンプレートと単品メニューのみになるが、 夜遅くまで働く人には好評間違い無し。 今回は、夜と
「では、乾杯!」と、とりあえず乾杯した。 ──本当は、2人で初めてのご飯に乾杯! とか言いたかったけど、引かれるからやめた。 『乾杯! いただきます』と言った。 「ハア〜美味っ!」 ──久しぶりに呑むビールは、美味い! 可愛い寧音ちゃんと一緒なら尚、美味いわ〜 お料理は、任せてくれるようなので、適当に魚介や肉の鉄板焼きを順番に焼いて出してもらった。 『ありがとうございます』とその度に、きちんとシェフにお礼を言っている。 ──そういう所も良い! 「とりあえず、食べるぞ」と、言って食べながら話すことにした。 俺は、三橋商事に居る頃から、食堂は夜遅くまで働いている人の為に開けてくれていると、とても有難いのに! と思っていたことを話した。 それに、土曜日に一般の方に開放することで、地域の方々に我が社のことを知ってもらったり、収入を得ることが出来ると熱く語ってしまったが、きちんと聞いてくれた。 『その為には、話題作りが必要だと思います』と提案までしてくれた。 「例えば?」と聞くと、 『有名シェフを呼んで、レシピを考えてもらって監修していただくとか……』と言うではないか。 とても良いと思った。 「おお、それは、良いアイデアだ!」と言うと、 『ただ……それなりの費用が発生してしまうのでは?』と言うので、 「最初の投資は仕方ないだろう。軌道に乗れば行列が出来る程になって、利益も出て来るんじゃないか?」と伝えた。 すると、疑いの眼差しフェレット発動だ! 「今、『そんなに上手く行く?』って思ったんだろう?」と言うと、 「!!」 ──驚きフェレット出没だ! ハハッ分かりやすいなあ、面白れ〜 大丈夫だよ! 金は社長が出してくれるし、知り合いを頼れば…… 「まあ、成功している企業に聞いてみるよ」 と言うと、 『ご存知なのですか?』と聞くから、 「いや、でもそういう話なら教えてくれるよ」と答えると、また疑いの眼差しで見ていた。 「ところでさあ、五十嵐さんって彼氏居ないの?」 と聞くと、 「ゴホッゴホッゴホッ」 とムセながら驚いた顔で、ジッと見つめている。 ──コレは聞いちゃダメなヤツなのか? 個人的にも知りたいんだけど…… 「いやさあ、彼氏が居るなら、彼の為
寧音ちゃんと2人で各部署を見て回った。 社員には、どんな人が居るのかを瞬時に観察して判断するのも俺の仕事だと思っている。 それに、伯父には、 『会社の為になるなら、お前のやりたいようにやって構わない!』と言われている。 だから張り切って向かったのに、いきなり 『きゃっ、イケメン専務よ!』という声が聞こえると、ヤル気が削がれた。 俺を見ながら、コソコソと耳打ちしてる女性社員もいた。 彼女たちは、会社に仕事をしに来てるのか? それとも、男を探しに来てるのか? 益々、気分が悪くなり、 「次!」 「次!」と、急いで回るのに寧音ちゃんにも付き合わせてしまった。 そこまで、女性に対して構える必要は無いのだとは思うのだが、どうしても今は警戒してしまう自分が居る。 きっとトラウマになってしまっているのだろう。 俺が唯一、安心出来るのは寧音ちゃんと居る時だけなような気がする。 どうして、寧音ちゃんにだけは、こんなにも心を開いているのか? 自分でも分からない。がどうも、この愛くるしい表情を見ていると安心するのかもしれない。 ただただ笑顔だけを振り撒くのではなく、驚いた顔も困った顔も怒った顔も、素直に見せてくれるから、こちらもずっと見ていたくなるのかもしれない。 もちろん伯父の推薦もあったから、安心している部分も有るのかもしれない。 どんどん引き込まれていく。 早々に切り上げると、後は食堂へ行っていないことに気づいた! 案内してもらったので、せっかくだから、寧音ちゃんとおやつでも食べようとしたのに、14時までだから、既に閉まっていたのだ。 それには、ガッカリだ。もちろん、こんな時間におやつを食べに来る人は、居ないのかもしれないが、現場の人間にとっては、夜も開けていてもらえると助かるのになあ〜! と思った。 それに、地域交流などの意味でも更に利益を上げるとすれば、土曜日営業が良い! 閃いた! ──良し! 俺がやろう! 「ふ〜ん、分かった! じゃあ俺それやるわ!」と寧音ちゃんに言うと、 『それとは?』と又キョトンとしている。 「食堂の一般開放をする!」と言うと、 『あのう〜専務は、他の業務が有りますが……』と言われたので、 「うん! だから五十嵐さん、手伝って!」
突然、親父の兄貴である伯父から、 『ウチに来ないか?』と言われ、大好きだった現場仕事を離れて、四友商事に来てしまった。 伯父には、小さい頃から可愛がってもらっていたし、子どもの居ない伯父の頼みだから断われなかった。 親父が三橋商事の社長だから、いつかは俺も役員のポストには就くのだろうとは思っていたが、 最悪な秘書を目撃してしまったから、そういう秘書が居るような会社にウンザリしていた。 だから兄貴が専務になってくれて、内心ホッとしていた。でも、いつかは俺もなのか……あの秘書いつになったら辞めるんだ? とさえ思っていた。 そんな時に、伯父から誘われて、悩んでいると親父も『お前の好きにして良い!』と…… しかも、伯父と来たら、 『お前にピッタリの秘書が居る! なんなら、生涯のパートナーとしても俺は推薦するぞ!』と煽ってきた。 ──そんなに良い女が居るのか? 最初は、興味本位だった。 『履歴書を送るから目を通しておいてくれ!』と伯父に言われた。 まず、目に入ったのは、顔写真! ──か、可愛いじゃないか…… でも、顔が良くてもな〜 「五十嵐寧音か……寧音、可愛い名前だな」 ──いや、でも、会ってみて思ってたのと違ったら、交代も有りだよな。本当は断わりたかったけど、とりあえず、仕事は、真面目にやるか…… もう、後戻りは出来ない! 役員専用車の運転手さんが、迎えに来てくれた。 会社に着くと……車の外で、 『おはようございます』と可愛い女性の声がした。 「専務さんご到着です」と運転手さんが言うと、後部座席のドアが開いた。 ──!! この子が五十嵐寧音さんか…… 実物の方が断然可愛いな、しかも思っていたより小柄なんだな、ちっこくて可愛い〜 しかし、俺を見てキョトンとした顔をしている。きっと若いから俺じゃないと思ったのだろう、一瞬目が泳いだ。秘書かと思って、専務を探しているのか? 『おはようございます』と言うので、 「おはようございます。櫻木です」と言うと、飲み込みが早いのか、すぐさま自分が秘書の五十嵐だと名乗った。 なるほど〜伯父さんの言うように、頭もキレそうだ。しかし、男癖がどうか? までは、まだ分からない! 少しテストしてみるか…… 「下の名前は?」
──翌朝 「寧音! 結婚しよう」 「は……」ピピピピッ ピコーン 〈寧音〜! 起きた〜?〉 「あ〜又だ! 久しぶりにあの夢を見た」 〈おはよう〜! 起きた〜〉と心菜に返信する。 〈おはよう〜良かった〉 〈今、又あの夢を見てたよ〉 〈お〜久しぶりに来たな〉 いつも顔は見えない。 いったい、私の相手は誰なんだろう? 顔が見えない声の主に、私はいつしか恋をしている。誰なんだろう? 夢だからか声がこもって聞こえる。耳触りの良い低い声…… 〈今日、ビュッフェでしょう? 良いなあ〉 〈あ、そうだった!〉 〈私の分までいっぱい食べて来てね〉 「ハハッ」 〈うん! そうする〜〉 〈専務によろしく〜じゃあね〉 〈うん、ありがとう〉 「あっ! 髪の毛爆発してる! もう〜シャワー浴びた方が早いな!」 シャワーを浴びて、急いで支度をする。 一旦出社してから又、役員専用車で専務と一緒にホテルへ向かう。 「おはようございます」 「おはよう〜、ん?」と言う専務。 「はい?」 「いや、良い香りがしたから……」 ──また、セクハラ? でも褒められたから良いか…… そして、 「今日はね〜ホテルビュッフェの勉強なんですよ」と、又わざわざ運転手さんに話している専務。 ──これ本当に必要? 誤解が生じないようにと専務の配慮なのだろうか? 運転手さんは、いつもニコニコしながら専務の話を聞いてくださっている。 専務が予約してくださったホテルビュッフェ。 1番最初に2人で、鉄板焼きを食べながら打ち合わせをしたホテルだ。 美味しそうなお料理がたくさん並んでいる。 「うわ〜最高〜!」 「好きな物を好きなだけ食べて良いぞ」とおっしゃる。 「はい! もちろん! ビュッフェですからね」と言うと、 「そうか……」とおっしゃる。 ──え? 今、マジで言ったの? 専務天然? 「専務、ビュッフェなんて行かれるんですか?」と聞くと、 「あ〜旅行に行った時の朝食ぐらいかな……久しぶりだな」とおっしゃった。 やはり、役員になると、きちんとしたお店へ行くことが多く、周りの人達が全て用意してしまうようだ。 「自分の好きな物を好きなだけ食べられるなんて、
────月曜日 まさか、この会社に入って秘書になり、食堂の話にこんなにも関わるなんて思いもしなかった。 専務が出社された。 専務室に入られると…… 「おはよう〜」 「おはようございます」と挨拶すると、 「五十嵐さん!」 「はい」 「土曜日は、本当にすまなかった」 と言った。 「いえ、もう大丈夫ですので……」と言うと、 両手を合わせて謝っている。 ──ふふ、可愛い とつい思ってしまった。 いつものように今日のスケジュールを専務にお知らせする。 すると、早速、プロジェクトの話だ。 「次の会議、明日だよな」 「はい!」 「涼、本当に日本で店を出す為に帰って来たようだ」と言った。 「そうなんですね」と私は、楽しみで仕方がないが、 なら、とてもお忙しいのではないだろうか…… 「だから、アイツが忙しくなる前に、こっちの話を進めないと……」とおっしゃる。 「そうですね。本当に有り難いお話です」 「アイツが新店舗の発表をしたら、先にウチの土曜日食堂が大盛況になるかもな」とおっしゃる。 「なら、1日何食って決めないと、スタッフの方々は大変ですね」 自分のお昼ビュッフェのことばかり楽しみに考えていたが、土曜日食堂は大変なことになりそうだ。 ────火曜日 プロジェクト会議の為に、魚崎涼さんが初めて来社された。 専務との挨拶は、相変わらず最初は、英語そして日本語へ ──コレ毎回どうにかならないの? そしてその後、見つめ合ったまま固まっている お2人が居た。 魚崎さんと林さんだ…… 「ん⁇」 「林さん? どうかされましたか?」と私が聞くと、 専務も、 「涼?」と魚崎さんを呼んでいる。 「あ、いえ……」 「あ、いや……」 「「⁇」」 専務と2人で首を傾げた。 ──お知り合い? 魚崎さんは、調理スタッフさんを2名連れて来てくださったので皆んなで食堂へと向かった。 今日は、食堂での実演試食会議なのだ。 食品部門の方々が用意してくださった、調理器具や食材を使って、料理してくださる。 私と食堂スタッフさんは、言われたことをしながら調理補助をする。 ──よし! エプロンの紐を縛って気合いを入れる。 『ど